三宅サン生誕記念文。

  • どうしよう、どうしよう!

でも、そんなどうしようとか言ってる場合ではない。という訳でようやくUPします。ただ、結構な真面目っぷりな上にゴ様のキャラがちょいとおかしい、更には何か祝いが足りなくないか?な…見事に迷走してる感じなので、是非スルーを推奨します(またか!)苦情ならいくらでも受け付けるので!!!では、行きまーす。隠しまーす。
























梅雨も明けきらない6月の終わり、しとしと降り続く雨の中、ふと見上げた空には雲の隙間から覗く太陽が居た。
俗に言う、天気雨というやつなのだろう。晴れているのに絶え間なく空から零れ落ちてくる雫を見詰めていると、胸の奥がジンとした。



6月が終わり、7月を迎えて今日で丸2日。
そう、僕がこの世に産み落とされた日だ。
自分に関わった全ての人達に、ありったけの感謝を込めて。


ちょっぴり感傷的なのは、歳を重ねたからだという事にしておきたい。もう、皆で集まってワイワイと誕生日を祝う歳でも無くなったけれど、今日はサプライズが。


丁度、収録日で互いに顔を合わせたメンバー達から、お祝いの言葉やプレゼント、更にはロウソクを差したイチゴたっぷりのホールケーキまで登場したんだ。


10と5年、彼らと共にした年月は家族と過ごした年数を超えている。何も無く此処まで来た訳じゃない。紆余曲折、其れこそ喧嘩だってあった。


其れでも互いの力を、絆を信じて共に歩んで来たからこそ生まれる、信頼――此れがあるから、僕らはブレない。


こうして祝って貰うのは決して初めてではないのだけれど、矢張り照れ臭いやら嬉しいやらで如何にも表情は緩んでしまう。
其れを知ってか知らずか、成長著しい末っ子は何やら含み笑いを浮かべているのが分かる。でも、今日は突っ込まずにおいてやろう。気分がイイから。


でも、祝いの輪の中に肝心の男が居ない。最近、小さなライオンの様だった髪を真っ黒に戻して、一気に黒猫と化した一番付き合いの古い仲間。


最早、仲間や友人と言った言葉では表現しきれない程、僕と彼の関係はちょっぴり特殊で、この説明しにくい関係が、実はとても気に入っている。


誰よりも僕を理解し、時には実の兄弟よりも深い位置までいとも簡単に距離を詰めて来る男。飄々としている様でいて、根っこは繊細。
其の、黒猫の姿が何処を探しても居ないのだ。ピロピロと電子音を立ててDSに夢中になっている男に、彼の所在を尋ねてみる事にして歩み寄る。



「なぁ、剛知らない?」


「…ん?剛君?さっき、休憩所で見たよ。」


…という事は喫煙所か。煙草の匂いが付くし、余り行きたくはないけれど、今は如何にも彼と会話を交わしたくて堪らないのだ。
何故だかは分からないけれど、自然と僕の足は楽屋を出て休憩所へと向け歩き出していた。




背丈こそ高くは無いけれど、何処に居ても大抵直ぐに分かる。長年見慣れているから、というのも勿論あるのだが、其れ以上に纏う空気が特徴的なのだ。


所謂、オーラというものなのだろう。身体の中に留め切れていない何かが、僕が彼を見つける目印になってくれている。


幸いにも喫煙所を出て、自販機の傍に置かれた長椅子に腰掛け大きな窓から外を見詰めている彼に、後ろから声を掛けてみた。


「何やってんの、剛。」


「お、健。休憩。」


声に気付き、振り向いた彼は笑みと共に答えを告げて来る。随分と長い休憩です事。許可を取らず、敢えて無言で近付き少しスペースの空いた右隣へ腰を下ろす。



しっくりと、心地の良い空間。



言葉を交わさずとも、過ごす時間の長さは苦にならず、口数の少ない彼も滅多に自分から言葉を発する事は無い。


なのに、今日は随分と珍しい事が続く日だ。背凭れにずるずると背中を預け、視線は窓の外に向いた侭、隣から声が掛けられる。


「ホントは、サプライズで本格的にやろうとしてたんだってさ。」


「え、何を?」


「誕生日。定番のパターン、暗くして入って来たらワーってやつ。」


大袈裟にされてしまうと、ただでさえ緩い涙腺が更に歯止めの効かない事になってしまうのは周知の事実。今は、余り人前で涙を晒したくは無いのが本音。


そういう感情の機微に気付いてくれるのは、矢張り過ごした時間の長さも関係して来るのだと思う。有り難いし、感謝すべき所だ。



「…剛からは何かねぇの?」


「おめでとさん。」


「そんだけかよ。」


「そんだけ。贅沢言うな。」


高らかに笑い声を上げて八重歯を覗かせた男は、腰を上げて傍のゴミ箱に飲み終えた缶を放り込むと一度大きく伸びをした。


彼は何時でも僕の傍に居て、其れが当たり前だと思っている。
其れは、メンバーも然り。余りにも自然に、溶け込む様にして僕の周りに彼らは居てくれるのだ。




だからこそ、改めて思い知るべき時だったんだ、今こそ。いずれは、こうして当たり前に過ごす日々も崩れる時が来るのだ、という事を。




だからこそ、決意をした。ならばせめて、悔いの無い様彼らと過ごす日々を、大切に大切に…噛み締めて過ごそうと。



「健。ちゃんと、俺らが居てやっから。」


「…何だよ、急に。」


「すげぇ顔してんぞ、お前。」


何時の間にか此方に視線を向けていた彼に指摘を受け、窓に視線を向けると――其処には、今にも泣きそうな顔をした僕が居た。
直ぐに視線を外し、手で頬を揉んで強張った表情を解して行くと、骨張った手が伸びて来て乱雑に僕の髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜて来る。


セットしたのに、と抗議するのも忘れて今はただ、無骨ながらも優しい其の行動に、鼻の奥がツンとするのを感じるばかりで。


如何してこの男は、いとも簡単に僕を素にさせるのだろうか。


「我慢すんな。俺の前でまでガチガチに固めなくても良いから。」


「……バレてたんだ。」


「俺を誰だと思ってんだよ。」


「…ありがとう、剛。」


「先戻ってんぞ。」


髪を掻き混ぜていた手が離れるのが分かると、其れだけで涙腺が緩む。優しい言葉だけを掛け続ける男では無いけれど、其れが今の僕にはきっと必要な事で。


こうして会話をして、時に体温を感じて。手が暖かい人は心が冷たいだなんて、ただの迷信だ。だって、彼の手は何時だって暖かい。
心も、其れに呼応する様に暖かいのだ。昔から其れは変わらない。


歩いて行く靴音を聞きながら、そんな事を考えているとふと足音が止まった。顔を上げると、此方を振り向いた彼と視線がぶつかり合う。――そして。


「健、一人にはしねぇからな。来年も、再来年も、その先も。俺らがしつこく祝ってやるから。」


確りと、そう宣言した力強さとは裏腹に、表情は先程僕がしていた様にちょっぴり泣きそうになっていて。そんな顔は、反則だと思う。もう、涙を止められないじゃないか。如何してくれるんだよ。


踵を返し、去って行く背中に向かってすっかりと涙声になって僕は呟いたんだ。――ありがとう、と。


どんなプレゼントを貰うよりも、来年も再来年も、其の先もずっと…彼らにこうして、おめでとうと声を掛けられる事の方が何倍も幸せなのだ。


不器用な男からの、珍しく優しさに満ち溢れた言葉。何時もならば聞けない台詞だろうから、矢張り誕生日というのは特別で。
暖かく、優しい響きを持つ其の言葉を胸の奥に確りと刻み込む。何度でも、何度でも、反芻出来る様に…深く。


――早く戻ろう。大切な仲間の居る所へ。そして、皆に感謝をするんだ。僕と出会ってくれて、そして…傍に居続けてくれてありがとう、と。



照れてしまって、少し茶化してしまうかもしれないけれど許して欲しい。其れが、僕なりの精一杯だと、笑って許して欲しい。


立ち上がって、窓の外を見遣ると其処には雨が上がって雲が切れ、綺麗な青い空と太陽の光とがキラキラと輝いていた。
今日も僕は、空を見上げて生きて行く。


どんな時でも、この空に抱かれて、大切な人達と共に。